脂質異常症(中性脂肪、コレステロール)

【中性脂肪とは】
健診などで血液検査をすると、脂質の項目として一般的に総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪が記載されます。

動物が生きていくにはエネルギー摂取のために食べ物を食べていく必要があります。
しかし、24時間365日食べ続けるわけではありません。食べたものをエネルギーとして貯蔵し、活動の状況に応じて消費します。
炭水化物、たんぱく質、脂肪の中で最もエネルギー密度が高く、効率良くエネルギーを貯蔵できるのが脂肪なのです(9.3kcal/g)。
貯蔵された脂肪のみで、ヒトは絶食でも60日まで生き延びることができるといわれています。

脂肪は食べ物からそのままの形で摂取するわけではありません。食べ物から“脂肪酸”として摂取し、それをグリセロールというものに結合させて中性脂肪として貯蔵します。グリセロールに脂肪酸が3つ結合したものをトリグリセリドといい、一般的に中性脂肪とはこのトリグリセリドのことを意味します。
エネルギーが必要な時に中性脂肪をアセチルCoAに変換し、そこからエネルギーとして利用します。このアセチルCoAがコレステロールの材料にもなるのです。

【脂肪酸】
脂肪酸は炭素鎖の2重結合の有無で大きく“飽和脂肪酸”と“不飽和脂肪酸”に分かれます。
不飽和脂肪酸の中でも炭素鎖2重結合が一つのものを“一価不飽和脂肪酸”、複数あるものを“多価不飽和脂肪酸”といい、炭素鎖2重結合の一によりn-3(ω-3)系、n-6(ω-6)系に分かれます。
多価不飽和脂肪酸は体内で合成できないため、食べ物から摂取する必要があります。

【コレステロールとは】
コレステロールはステロールと呼ばれる有機化合物の一種で、細胞の膜の構成成分やホルモンの材料となったり、消化酵素である胆汁酸の原料となるなど、生命の維持にとても重要な働きをしています。

コレステロールや中性脂肪はそのままでは水(血液)に溶けないため、水に溶ける物質に包んで血液中を移動します。
その包まれた状態をリポ蛋白といい、その比重の軽いものから
  カイロミクロン
  VLDL;超低密度リポタンパク質
  IDL;中間密度リポタンパク質(=レムナント)
  LDL;低密度リポタンパク
  HDL;高密度リポタンパク質
と呼んでいます。
カイロミクロンは中性脂肪をたくさん含んでおり、構成成分の90%が中性脂肪です。VLDLも中性脂肪が多く、50%以上が中性脂肪です。
LDLはリポ蛋白のなかで最もコレステロールを多く含んでおり構成成分の6割がコレステロールです。HDLはたんぱく質が多く、コレステロールが35%,中性脂肪が15%位です。

カイロミクロンやLDLは存在自体が悪のように言われますが、別に人体に悪さをしようと思ってるわけではありません。
カイロミクロンは小腸で吸収した中性脂肪やコレステロールを肝臓に運びます。人間が活動するときに今度はVLDLによって中性脂肪やコレステロールが肝臓から運び出されます。VLDLは血管でLDLに変化しコレステロールを各細胞に配布します。
HDLは細胞から使い切れなかったコレステロールや中性脂肪を回収して肝臓に運ぶ役割をしています。

【LDLコレステロールや中性脂肪がなぜ動脈硬化をおこす?】
LDLが細胞内に取り込まれる際に、一部が血管内皮細胞表面に存在するリポ蛋白リパーゼなどによって小粒子化してsdLDLとなります。sdLDLはLDL受容体との親和性が低いため、血流に長く滞在する。
LDLが酸化された酸化LDLは動脈硬化や血栓形成を引き起こす原因として考えられていますが、sdLDLは酸化LDLへと変化しやすく、酸化LDLは肝臓のLDL受容体と結合できず血流に滞在するため血管壁に沈着します。 
また、中性脂肪を多く含むカイロミクロンはリポ蛋白リパーゼによって分解されるとカイロミクロンレムナントとなります。カイロミクロンレムナントは小さいため血管壁により侵入しやすくなります。

血管壁に侵入したsdLDLや酸化LDL、カイロミクロンレムナントはマクロファージに取り込まれ、マクロファージを泡沫化させ、これが繰り返されることで動脈硬化が形成されるのです。
このような動脈硬化はやわらかく不安定なので、何らかのきっかけで破綻すると心筋梗塞や、脳卒中を引き起こします。

LDLコレステロールが上昇するのは食事や運動量だけではなく、LDL受容体の遺伝的変化が非常に大きく影響することが分かっています。LDL受容体の遺伝的変化は稀な疾患ではなく、日本人においても500人に1人くらいの割合で存在し、25万人くらいの患者さんがいると考えられています。

【脂質異常症の治療】
脂質異常症の治療薬は内服薬が一般的ですが、家族性コレステロール血症の方や、心筋梗塞や狭心症を繰り返す方に対してはPCSK-9阻害薬という自己注射薬を使用することもあります。
LDLコレステロールや中性脂肪は動脈硬化性疾患のリスク評価(冠動脈疾患の有無、糖尿病、慢性腎臓病、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患、喫煙、高血圧、低HDLコレステロール血症、耐糖能異常、早期冠動脈疾患の家族歴)を行い管理目標値を設定します。