静脈血栓塞栓症について

【静脈血栓塞栓症とは】
静脈血栓塞栓症は、主として足や骨盤内の静脈に血の塊(血栓)ができる『深部静脈血栓症』と、血栓が飛んでいって肺動脈を閉塞する『肺動脈血栓塞栓症』をあわせた疾患概念です。長時間の飛行機搭乗時に十分な水分摂取をせず動かず座りっぱなしでいると発症することがあるためエコノミークラス症候群、ロングフライト症候群と呼ばれることもあります。最近では災害発生時の避難所生活や車中泊での発症が問題となっています。

【原因】
・血流の停滞:長時間の安静(車中泊、長時間の飛行機移動)、下肢の骨折、妊娠、肥満、脱水
・静脈の障害:骨盤内手術、中心静脈カテーテル留置
・血液凝固能の異常:骨折、悪性腫瘍(がん)、一部の膠原病、凝固因子異常、経口避妊薬、炎症
などが原因として考えられます。

【自覚症状】
下肢の浮腫みや痛み、突然あるいは慢性的な呼吸困難、過呼吸、胸痛、動悸、めまい、ふらつき、眼前暗黒感などがあります。重篤な場合は血圧が維持できず心原生ショックを合併し、その場合の死亡率は30%にものぼります。

【検査】
・血液検査ではD-ダイマーという値が上昇します(ただし静脈血栓塞栓症に特異的なものではなく、他の要因で上昇することもあります)。動脈血液ガス分析を行うと、低酸素血症や低二酸化炭素血症を認めることがあります。
・血栓の評価のため、超音波検査、造影CT検査などを行います。また、肺動脈の血流評価にはシンチグラフィを行います。
・肺動脈が閉塞すると右心不全を合併し、心電図異常や心臓超音波検査での異常を認める場合があります。

右心不全の状態(左):心臓の壁が圧迫されています 
治療後(右):右心圧が低下し、圧迫が解除しています

【治療】
経口薬(直接的経口抗凝固薬やワルファリンカリウム)や点滴(ヘパリン)による抗凝固療法を行います。ショックを呈する場合には強力な血栓溶解療法を行ったり、鼠径部(足の付け根)や骨盤内に柔らかく大量の血栓を認める場合には下大静脈フィルターを留置することもあります。
原因が除去できる場合は数か月後に内服薬を中止することができますが、原因が除去できない(原因不明の)場合は再発の恐れがあるため抗凝固薬を長期的に服用する場合があります。